チンアナゴとは — 名前の由来と、砂から出ている理由
「チン」は犬の狆(ちん)から来ています。顔がよく似ているというだけの理由です。
名前は犬から来ている
漢字では狆穴子と書きます。「狆(ちん)」は日本で古くから飼われてきた小型犬で、鼻が短く目が離れた顔つきをしています。砂から顔を出したこの魚の顔がその狆に似ていたことから、この名が付きました。命名したのは魚類学者の阿部宗明です。
英語では spotted garden eel。砂地から何十匹も並んで生える様子が畑の作物に見えることから、この仲間はまとめてガーデンイール(庭のウナギ)と呼ばれます。グッズの商品名に「ガーデンイール」と書かれていたら、この仲間のことです。
どんな魚なのか
| 学名 | Heteroconger hassi |
|---|---|
| 分類 | ウナギ目 アナゴ科 チンアナゴ属 |
| 全長 | 35cm程度 |
| 生息水深 | 15〜45m |
| 水温 | 25〜29℃ほど |
| 環境 | サンゴ礁外縁部の、潮通しのよい砂底 |
| 分布 | 東は東アフリカ、西はピトケアン諸島まで。日本での北限は小笠原諸島・静岡県・高知県・屋久島・琉球列島 |
ヘビのような見た目ですが魚の仲間で、エラも胸ビレもあります。同じアナゴ科には寿司や天ぷらのマアナゴがいて、近い親戚にあたります。
見えているのは体の3分の1だけ
サンシャイン水族館の解説によれば、チンアナゴは体の2.5倍ほどの長さの巣穴に、体の3分の2を埋めたまま暮らしています。水族館で見えているのは、全体の3分の1にすぎません。
危険を感じると、後ろ向きに素早く巣穴へ引き込んで見えなくなります。近づきすぎると一斉に消えるのはこのためです。
巣穴は自分の粘液で固めている
ではその巣穴はどう作るのか。海遊館の生きもの図鑑にはこう書かれています——「平たい尾で砂を掘りながら、体表の粘液で周囲を固めて巣穴を作ります」。
尾びれが平たいのは、砂を掘る道具として使うからです。掘っただけでは崩れてしまう砂の穴を、自分の体から出す粘液で塗り固めて維持している。ぬいぐるみでは省かれてしまう部分ですが、この魚のいちばん器用なところです。
全員が同じ方向を向いている理由
水槽をよく見ると、チンアナゴは全部が同じ向きに体を傾けています。これは潮の流れに乗って運ばれてくる動物プランクトンを食べるためで、流れの来る方向に頭を向けています。餌を追いかけるのではなく、流れてくるものを待つ。だから巣穴から出る必要がありません。
海遊館では、朝と昼の1日2回、アルテミア(ブラインシュリンプ)を与えているそうです。普段は砂に隠れていても、餌が近づくと体を伸ばしてきます。水族館で体を長く見たいなら、給餌の時間を狙うのが確実です。
隣が近すぎるとケンカする
おとなしそうに見えて、縄張りはあります。サンシャイン水族館の解説では、隣との距離が近すぎると縄張り争いでケンカになることがあり、低い姿勢で向き合って相手を威嚇する姿が見られると書かれています。ゆらゆら揺れているだけの生き物ではありません。
繁殖は長いあいだ謎だった
チンアナゴは産卵期も巣穴から出ません。そのため繁殖の様子を観察するのが難しく、生態には長く謎が残っていました。
すみだ水族館は「繁殖生態には謎が多いが、当館ではじめて繁殖行動の映像を記録し、これまで謎であった繁殖生態の一部がわかっている」としています。沖縄美ら海水族館では水槽内での産卵行動が観察されており、主に5〜11月、展示用の照明が消えてから約2時間後に放卵・放精する様子が確認されています。
生まれた子どもはレプトケファルスという透明な柳の葉のような形の幼生期を過ごします。チンアナゴの場合、この幼生は全身が黒いことが知られています。
ニシキアナゴは別の属の魚
グッズでは必ずと言っていいほど一緒に扱われますが、チンアナゴとニシキアナゴは属からして違う別種です。
| チンアナゴ | ニシキアナゴ | |
|---|---|---|
| 学名 | Heteroconger hassi | Gorgasia preclara |
| 属 | チンアナゴ属 | シンジュアナゴ属 |
| 見た目 | 白地に黒い水玉。大きな黒丸が5つ | オレンジと白の横縞 |
| 大きさ | 35cm程度 | 最大40cm |
| 水深 | 15〜45m | 30mほどが多い |
| 暮らし方 | 群れをなす | 単体または小さな集団 |
ぬいぐるみやキーホルダーを選ぶときは、「白に水玉」か「オレンジの縞」かで見分けられます。2匹セットの商品が多いのは、水族館でも並べて展示されることが多いからです。
なお、体の水玉のうち大きな黒丸が5つあるのがチンアナゴの特徴で、頭部の側面にも黒点があります。造形の細かいフィギュアやリアル系のぬいぐるみは、この黒丸の位置まで再現しているものがあります。
出典
- すみだ水族館「チンアナゴ」 — 模様、繁殖行動の記録、チンアナゴの日
- サンシャイン水族館「チンアナゴ」 — 巣穴の長さ、縄張り争い
- 海遊館 生きもの図鑑「チンアナゴ」 — 学名、粘液で巣穴を固めること
- 沖縄美ら海水族館「チンアナゴ」 — 分布、摂食、産卵行動の観察
- Wikipedia「チンアナゴ」 / 「ニシキアナゴ」 — 分類、体長、水深、幼生